
1958年、ブラジル音楽史に新たな章が始まりました。ジョアン・ジルベルトが作曲し、アントニオ・カルロス・ジョビンの作詞を手掛けた「Chega de Saudade」は、世界中にボサノヴァブームを巻き起こすきっかけとなった楽曲です。
この曲のタイトルはポルトガル語で、「もう悲しみはいいよ」という意味を持ちます。しかし、そのメロディーからはどこか切ない哀愁が漂い、聴く者の心を揺さぶります。ジルベルトの透き通るようなボーカルと、ジョビンの詩情豊かな歌詞が織りなす世界観は、ボサノヴァの真髄ともいえるでしょう。
ジョアン・ジルベルト:ボサノヴァの父と呼ばれる男
ジョアン・ジルベルト(1931-2019)は、ブラジルのサンパウロで生まれました。「ボサノヴァの父」と呼ばれる彼は、この音楽ジャンルを世界に広めた功績が広く認められています。彼の音楽は、従来のサンバのリズムにジャズやクラシックの影響を取り入れた、新しいサウンドを生み出しました。
ジルベルトは、1950年代後半から「Chega de Saudade」を始めとする多くのボサノヴァの名曲を制作し、世界中の音楽ファンを魅了しました。彼の独特の歌い方は、ソフトで繊細な声と、抑揚の少ないメロディーラインが特徴です。その歌声は、まるで語りかけるように聴き手を包み込み、心温まる感情を引き起こします。
アントニオ・カルロス・ジョビン:詩情豊かな歌詞の世界
アントニオ・カルロス・ジョビン(1928-1969)は、ブラジル出身の作曲家兼ピアニストです。「Chega de Saudade」の作詞を手掛けた彼は、ボサノヴァの黄金期を代表する人物の一人として知られています。
ジョビンの歌詞は、彼の故郷であるブラジルの風景や文化、そして人間関係の複雑さを描いた詩情豊かな作品が多く見られます。彼の歌詞には、悲しみや喜び、愛や孤独など、様々な人間の感情が繊細に表現されており、聴き手を深く感動させます。
「Chega de Saudade」の音楽構造
「Chega de Saudade」は、4/4拍子で書かれており、軽快なリズムと心地よいメロディーが特徴です。曲の序盤は、静かで穏やかな雰囲気で始まり、徐々に盛り上がりを見せます。ジルベルトの透き通るようなボーカルが、ジョビンの詩情豊かな歌詞を乗せて歌い上げます。
楽曲の構成は以下の通りです:
- イントロ: ギターの美しいアルペジオで始まる
- Aメロ: 哀愁漂うメロディーが歌われ、歌詞の世界観が広がる
- Bメロ: テンポが少し上がり、明るい雰囲気に変化する
- サビ: 曲のハイライト部分で、力強くメロディーが歌われる
「Chega de Saudade」の遺産と影響
「Chega de Saudade」は、ボサノヴァの象徴的な楽曲として、世界中の多くのアーティストにカバーされ、様々なアレンジが生まれました。この曲は、ブラジル音楽だけでなく、ジャズやポップスにも大きな影響を与えてきました。
| カバーアーティスト例 | 年 | ジャンル | |—|—|—| | フランク・シナトラ | 1962 | ジャズ | | エリーゼ・クライン | 1995 | ポップ | | シャーリー・バッシー | 1968 | ジャズ |
「Chega de Saudade」は、ボサノヴァという音楽ジャンルを世界に広め、多くのアーティストに影響を与えた歴史的な楽曲です。その哀愁漂うメロディーと軽快なリズムは、今もなお多くの人々に愛され続けています.